1990年代、とある展覧会でひときわ強い存在感を放ち、受賞の栄誉に輝いた一枚の器。ピンクの背景に佇むその作品は、私の心に深く刻まれました。以来、その姿はずっと私の中で「原風景」として生き続けています。
あれから年月を経て、私はその当時の雰囲気を現代の型に重ね合わせ、新たなかたちで蘇らせたいと思うようになりました。何度も試作を繰り返し、ようやく辿り着いたのが今回の別注モデルです。
今回の制作にあたり、当時の記憶を写し取るように「青のライン」を引き直しました。ただし、それは単なる再現ではありません。いま継続して制作されている器の仕様をもとに、その青のラインを1.5倍の幅に広げてもらったのです。
平皿、カレー皿、マグカップ、ワイングラス、そして大小の器まで、すべての型に共通する新たな「青の存在感」。静かに、しかし確かな強さで器の表情を引き締めています。
この青には、不思議な力が宿っています。細く繊細に刻まれた文様の中に、たった一本、凛として走る青。日常に溶け込みながらも、一瞬で視線を惹きつける。控えめでありながら、どこか清らかで、凛とした美しさを漂わせています。
私には、この青が「時間の流れ」を象徴しているように見えます。90年代から今へと続く流れの中で、変わらないものと変わりゆくもの。その両方を受け止めるかのように、青のラインは静かに器の上を走り続けています。
小石原焼金丸窯が育んできた確かな技術と、私の心に残る一枚の器。その二つが出会い、試作を重ねて生まれた新たなモデルは、単なる復刻ではなく、時代を越えて更新された「現在のかたち」です。
日々の暮らしの中で、ふと目にしたときに心を澄ませてくれる、そんな器であってほしいと願っています。
オンラインショップにも新たに掲載致しましたので、どうぞご覧下さい。
小石原焼と金丸窯について
金丸窯(かなまるがま)
小石原焼の原点に立ち返る想いから、蹴ろくろを用いた作陶を続けています。白い化粧土を重ね、飛び鉋や刷毛目など、小石原に伝わる伝統技法を一つひとつ丁寧に施し、器の表情を紡いでいます。
小石原焼
小石原焼は1682年、筑豊地方で最初の窯場が開かれたことに始まります。刷毛目、飛び鉋、櫛描き、指描き、流し掛け、打ち掛けなど、多彩な技法による幾何学的な文様が特徴です。江戸時代中期には、小石原から陶工が大分県日田市の小鹿田村に招かれ、その技術を伝えました。こうして小鹿田焼は小石原焼の技を受け継ぎつつ、独自の焼き物として発展していきました。
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エン
渡辺 翼
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