質感の対話 螢松窯

質感の対話 螢松窯

鹿児島・姶良に窯を構える螢松孝弘氏の器は、土の質感と釉薬の奥行きが重なり合い、視覚だけでなく手に取った瞬間に確かな存在感をもたらします。
これまでマットな質感を基調としてきたその仕事に、今回は薩摩らしい艶を重ね、質感のコントラストを際立たせた特別仕様を仕立てていただきました。



éhnのために仕上げられたこの器は、外側に凹凸を残したテクスチャーと、艶やかな釉薬を纏わせています。鉄釉の深い黒には「ガネミソ」と呼ばれる水酸化第二鉄が使われ、黒薩摩の原料として知られています。同じ調合でも採取地によって色や表情が変わる自然が生み出す偶然性が、そのまま器の魅力として表れています。









さらに、粉引(白い釉薬を掛けた技法)や鉄釉には土灰釉を用い、その中には鹿児島の郷土菓子「あく巻き」に使われた灰が含まれています。食の営みの副産物を焼き物へと活かす知恵は、暮らしと器が地続きであった時代の記憶を今に伝えています。






鹿児島の霧島温泉に含まれる鉄分を施釉に取り入れるなど、螢松窯の技法は伝統と土地性に根差しながらも自由で柔軟です。
そこにéhnの視点を重ね、鉄釉には黒薩摩(黒もん)の系譜を引く色調を宿しました。鉄分を多く含む土と釉薬が融け合い、深い黒に艶を与え、黒薩摩特有の漆黒の光沢を見せています。






一方で粉引には透明感のある土灰を重ね、白にも穏やかな艶を差し込みました。






黒は黒の艶、白は白の艶、それぞれの質感が響き合い、器の表情に奥行きを生んでいます。


外側のマットな質感と内側の光沢。その対比は、無骨さと洗練という相反する表情をひとつの器に同居させました。
これは単なる仕様変更ではなく、伝統の中に新しい均衡を見出す試みであり、現代に呼応す新たな姿になると嬉しいです。

その組み合わせが偶然に生み出す色合いや質感は、均質さとは異なる豊かさを宿し、時を経るごとに深まりを増していきます。






器が食卓に並ぶとき、その存在はただの道具を超え、暮らしに静かな余韻を添えてくれるはずです。



【螢松窯(けいしょうかま)】
棈松 孝弘(AbematsuTakahiro)
1971年 鹿児島県姶良市生まれ
1992年 名古屋造形芸術短期大学 プロダクトデザインコース卒業
1998年 鹿児島市窯業室終了
都城焼窯元で学ぶ
2001年 鹿児島県姶良市に螢松窯を開く




éhn
エン


渡辺 翼

Instagram:@_ehn_0503
@tsubasa.watanabe_